7年前、わが街から仕事で札幌に転勤となって以来、年賀状だけの付き合いになっていた同じ歳のある知人から突然電話がかかって来た。
久しぶりの突然の電話というものには”良い知らせ”の確立がなぜか非常に少ない。
入院・不幸の連絡から、”金貸して!”まで、あまり嬉しいものは何故か少ないのである。
(そうそう、殆ど音信不通状態の進学先の息子から来る突然の電話も同様である。その殆どは
”金送って!”である。 ・・・トホホ)
常々、世の中を斜めに見てしまう私など、突然の電話という状況だけで、その後の展開を先回りして想像しながら聞いてしまう。
(おめでとうございます!○○が当たりました!
・・・なんて電話が来て喜んだら、それはそれで災難の入り口である。
詳しくは、会場にお越し下さいと続き、行こうものなら悪徳業者の餌食となる時代である)
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彼は札幌市に転出した後、今から約3年前に会社をやめ、再就職した会社で元気に仕事をしているらしい。
(先の会社には”夢”が無かったと言っている・・・
道内では一流の企業だったが、外資系企業に移り頑張っているとの事である)
と、そこまでは良かった。
当然だが、副業を禁ずるその外資系会社に勤める彼は、奥さん名義で会社もどきを作り、サイドビジネスも手がけているとの事である。
(何だか雲行きがあやしくなってきた)
「井上さんは寝具という”健康産業”の一つに関わっているのだから、健康サプリメントなどでビジネスエリアを広げないですか?」と話が変わっていく。
寝具業を”健康産業”というくくりにするのは、あながち間違いではないかもしれないが、そこをサプリと直結させるのは、かなりの力技である。
(彼の理屈で理解すると、豆腐屋の母さんも、魚屋のおっちゃんも立派な健康産業のお仲間だ!?)
結局のところ、他に無い優れたサプリ製品を扱っているので、資料を送らせて欲しいとの事である。
そんな物を扱うつもりはサラサラ無いが、資料くらい勝手に送れば〜って気持ちで返事をした。
その電話の翌日に早くも沢山の資料が入っていると思われるA4封筒が到着した。
忙しくて、開封もしていない内に電話が来た。
何とも早い行動である。その点だけは爪の垢を煎じて飲まなければならないかもしれない。
(っていうかぁ、なぜ爪の垢なのだろうか?
”目クソ鼻クソを笑う”という表現があるが、それに比べたら、爪の垢は随分と大事に扱われているではないか!?)
「資料見ましたか?」
時間が無くて開封すらしていない事を告げると、二日後にそっちに行くので、話しを聞いて欲しいと言う。
何かのついでに来るのならまだしも、往復400kmもある札幌からわざわざやって来ると言う。
私だけに”サプリビジネス”の勧誘に来るのなら間違いなく無駄足になるよ!と告げたのだが、それでも来ると言う。
こういった類いの”熱心さ”というか”強引さ”は私には全く無いし見習うつもりは無いが、ある面関心してしまう。
(と言うより、私が彼なら、私のような人物にそもそも接触はしないと思うが。
・・・時間と費用のムダである!?)
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二日後、彼は、自宅近くの人気店のシュークリームだと言って手土産持参で会社にやって来た。
7年ぶりの再会である。
落ち着く場所へと近所の喫茶店に移動して、お互いの近況の話で少し盛り上がる。
「ぜんぜん変わりませんねぇ〜」と言われる。
この歳になっても、オヤジの風格すら出てこないのは、ある面喜ばしく無い事である。
(この春、市議会議員となったが、暑い夏の間は、ずっとTシャツ姿でそこら中に出没していたので、先輩議員などにはさぞかし”変なのが入って来た”と思われてるに違いない)
送ってきた資料は結局忙しくてそのままで、喫茶店で開封をした。
(高騰するガソリン代と高い高速料金を払ってやって来た知人に失礼ではないか!?
しかもシュークリーム付きである。
・・・まぁ、こっちが送れって言った訳じゃないし)
いろんなサプリメントや化粧品のリーフレットがいっぱい入っており、主力製品の説明が始まった。
「市販の製品の3〜4倍の濃度がある!」
「特許の塊で、他のメーカーは真似出来無い!」
「多くの学者・学説で効能が証明されている!」
とにかく、話が終わらない。
「本当にそんなに良いものなら、布団屋じゃなく、薬屋さんや健康関連ショップに卸せば?」
と私が言ったあと、彼は持参のカバンから別の資料をおもむろに差し出した。
その資料に載っていたのは、ピラミッド型の販売形態図である。
なんとネットワークビジネスであった。
(最初から、その販売方法を明かさない所など、何ともズルイではないか!)
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最近、ネットワークビジネスとおしゃれな名前に変わったが、私に言わせてもらえば”マルチまがい商法”である。 (お金の代わりが商品になっただけのねずみ講である!)
自分が子供(1階層下)にあたる会員を2人作り、その会員が孫(2階層下)に当たる会員をそれぞれ2人作るとしたら、配下には6人の会員がいて、いろんな名目で利益が上げって来るという。
孫の会員がそれぞれ会員(3階層下)を2人ずつ作ると、配下の会員が14人となり・・・
というシステムである。
私の計算では、たった2人ずつの勧誘でも、14階層下でわがまちの人口を越え、22階層下で北海道の人口を越え、26階層下で日本の人口では足りなくなる。 正に”ねずみ算”である。
(彼は金融業から保険業に転業したそれなりのビジネスマンである。が、布団屋でも出来るこんな簡単な計算はしないようだ)
彼は、真面目な顔をして自分の配下の10階層下あたりのポジションに私をお願いしたいと言う。
それが本当なら、もう彼の配下には2千人ほどの会員がいるハズで、こんな所まで大衆ミニバンで商談に来なくても、既に左ウチワの生活じゃなきゃつじつまが合わないような気が・・・
(まぁ、立派なベンツで来られても、それはそれで十分に胡散臭いが・・・)
なぜ一般流通ルートで販売しないのか?と聞くと
販売経費を徹底的に削減するため!と答える。
では、商品価格の半分以上を会員への利益配当に回しているネットワークビジネスのどこが経費削減なのだろうか?
(あてが外れて殆ど配当の来ない大半の会員さんは、6割引で買った方が得だと思うのだが・・・)
その日はシュークリームを頂いてしまったので、丁重にお帰りをいただいた。
(その代わりコーヒーを2杯おごったのでチャラ?)
当然だが、後日電話できっぱりとお断りした。
そもそもネットワークとは網の目とように繋がり合い、双方向に情報を共有する意味などで使われている場合が殆どだが、このビジネスは配下に扇状に広がるだけで、しかも下位の会員は上位の会員に搾取されるだけであり、こんなものはネットワークでも何でもない。
断りづらい知人・親戚をターゲットにして、一方的な勧誘をして、”ネットワーク”だなんて詭弁も甚だしいではないか!
その上、自らの知人・友人のネットワークを崩壊させている。
(そっか!それでネットワークビジネスと言う!?)
しかしながら、彼は人を騙そうとしているようには見えないし、元来真面目な奴である。
「この素晴らしい商品を広められる唯一の販売システム!」と完璧に洗脳されているのだ。
何とも、ある面哀れでもある。
視野が真っ直ぐ狭く生きると、このような事への免疫が効かないのである。
一部の変な宗教への入信者も同様である。
(たまには斜めから見たり、裏から見たりする視点が必要なのである。
屈折しすぎも困るが・・・誰が?)
そんなに素晴らしい販売方法なのであれば、ナショナルだってトヨタだって資生堂だって絶対に導入するのである。
そうならない訳が、何故なのかという普通の疑問すら見えなくなるのである。
ネットワークビジネスの会社名を検索サイトに入力すると、どこも苦情の掲示板が見つかる。
彼は、ネットを駆使して、販売に都合の良いサプリ関連サイトのプリントを沢山置いていったが、苦情掲示板には何故か目が行かないようである。